「家老は通常の家臣にあらず。主君の後見役にして、ご意見番でござる。主君が道を誤れば、ただちにそれをたしなめ、ときには苦言を呈して、お諌め申し上げるのが、家老の忠義にあられるや。物言わぬ家老は、田んぼの案山子と同じじゃ」
「ならぬものは、決してならんのだ。太陽は東から昇り、西へ沈む。草木はいくら伸びても、天には届かん。ひとにはひとの分際があり、いかに修行を重ねても、鳥のように空は飛べぬ。魚のように泳ぐこともできぬ。何事も見極めが肝心ということじゃ」
「そちは、すぐに『腹を切る、腹を切る』と言うが、これほど身勝手な申し分はあるまい。腹を切れば事は済むのか。あとのことは、どうなってもよいのか。一国の領主たる者はな、いかに腹を切りとうても、切れんのじゃ。死ぬるに死ねないつらさが、おまえにはわかるか」
「ひとが死ぬのはな、生きておった証にほかならぬ」
「わたしどもは逃げとうござりませぬ。城に立てこもって、最後まで戦います。(中略) 雪は溶けるもの。花は散るものにございます。武門に生まれ育った女子には、それなりの面目がござります」
「母上、ひとは生まれ変わるのでしょうか。ならば、もう一度、田鶴子を生んで下さいませ」
「ならんからというて、あきらめることはない。もっと先のことを考えながら、しばらく待てばよい。天気を変えることはできんが、雨上がりを待つことはできる」
「これからが正念場ぞ。あせらず、怒らず、威張らず、腐らず、己に負けるな」
テレビ東京/2013年1月2日放送
【脚本】ジェームス三木