「(わたしが書いた台本と、先生がそれを直した台本では)涙の深さが全然 違いました。先生がいつかどこかでおっしゃってた『子宮で泣かせて、睾丸で笑わせろ』って・・・。おっしゃってた意味がよくわかりました。あたしが読んでいただいた台本は、本当に上っ面の、大震災の事実におんぶした、ただそれだけの お涙もの だった気がします」



「ぼくがきみたちの台本ホンに打たれたのはね、いままでのテレビドラマに影響されずに、誰にも媚びることなく書かれていたからだよ。だから、コンクールに出したら、落とされちゃうかもしれないな。だって、いまのテレビ界ってのは、すぐに使えるものを、ウケるものを、重視する傾向があるからね。その台本ホンの新鮮さ、それから素晴らしさ、それに気づくようなプロデューサーはいないかもしれない」



「あそこに一本の立派な木があるだろ。あの素晴らしい木を、根元から切って自分の庭に移そうとしても、立たないのさ。根がないからね。木というのは、根があって立つんだ。でも、根は見えない。見えないから、みんな忘れる。忘れちまって、枝ぶりだとか、葉っぱとか、実とか、花とか、そういうものばかり大事にしてしまう。それだから、いまのドラマはダメなんだよ。そういうものを大事にしなきゃ、いいドラマはできっこないのさ」


テレビ朝日/2017年9月29日放送
【脚本】倉本聰