「ここ何日か、一日の中の数時間、めぐみさんの認知症は突然 現れ、彼女をまったく別の世界へいざなって、連れて行く様子だった。正常な時間がないわけではなかった。正常に戻ると めぐみさんは まったく いつもと変わらなかった。しかし、本当に一日のうちの何時間、ときには何分という短い時間、彼女は認知症という不思議な妖精に誘われ、その世界に連れて行かれるのだ」



「若いころ、わたしたちは しょっちゅう互いを見つめ合い、なにかをしゃべり合い、そして笑った。笑い合うことが、ふたりの幸せだった。だが、幸せの形はそのうち変わった。見つめ合うことは次第に少なくなり、並んで なにかを見つめることのほうが、あるいは聞くことが、感じることが、そして、同じことに心打たれ、語り合うのでなく、同じ感動を心の中にしっかり共有して、黙って並んで歩くことのほうが、恋の新しい形になってきた」


テレビ朝日/2019年9月25日放送
【脚本】倉本聰