３年Ａ組 －今から皆さんは、人質です－・第10話（最終回） [３年Ａ組]
「この動画はオレが作ったフェイク動画だ。景山澪奈の自殺とは、なんの関係もない。混乱してるね。なのに、けなすことは忘れない。これだよ、これ。これが、オレが立てこもった最大の理由だよ。１日目、おまえたちはオレを生徒殺しの殺人犯として、ネットで叩いた。2日目、３日目、４日目と、次々に増えていく犠牲者の情報に、おまえたちはオレを凶悪犯として、ネットで盛り上がった。５日目、オレが誰も殺していないことや、教師が標的だったことを知ると、今度はオレをヒーローとして、ネットで称えた。６日目、武智の犯行を匂わせたら、ネットで武智に疑いを向けた。７日目、フェイク動画に映った人物を武智と断定して、ネットで追いつめた。８日目、証拠もないのに武智をネットで徹底的に糾弾した。９日目、オレが真犯人だとわかるやいなや、矛先をオレに変えて、ネットで叩きまくった。そして今日、10日目、すべてが嘘だと知った。おまえたちは、この10日間でどれだけ自分の意見を変えた。信憑性のない情報を頼りに、どれだけ心無い言葉をネットで浴びせた。オレはそんな おまえらの愚かな行動をあぶり出すために、この事件を引き起こしたんだよ。『関係ねー』じゃねえんだよ。これを娯楽としか思っていない あんたに言ってんだよ。おい、そこの、まわりに流されて意見を合わせることしかできない おまえに言ってんだよ。おまえら、景山のなにを知ってんだよ。なんにも知らねえだろ。会ったことねえだろ。話したこともねえだろ。たいして知りもしないのに、なんで あんなに叩けるんだよ。『ウザい』『キモい』『死ね』――。よくも まあ そんなゲスなワードがポンポン出てくるもんだわ、まったく。それだよ、それ。その おまえの自覚のない悪意が、景山澪奈を殺したんだよ。おまえらネットの、何千、何万という、悪にまみれたナイフで、何度も、何度も、刺されて、景山澪奈の心は殺されたんだよ」
「フェイク動画が景山を苦しめたことに違いはない。けど、あれは いわば一時災害に過ぎなかった。あのフェイク動画を鵜呑みにした おまえたちが、誹謗中傷を浴びせた二次災害こそが、景山を死に追いやった原因なんだよ。景山はネットの罵詈雑言によって、幻覚や幻聴を感じるようになった。（中略） おまえも、おまえも、おまえも、いままでさんざん正義感を振りかざしてきたくせに、分が悪くなった途端に、子供のように責任転嫁をはじめる。自分を正当化するのに必死だな。つまんねえ生き方してんじゃねえぞ。見苦しいんだよ。ふざけてんのは おまえらだろうが。おまえら一度だって真剣だったことあんのか。あ？ 逃げてんじゃねえぞ。自分の親や友達に面と向かって言えない言葉を、見ず知らずの他人にぶつけんなよ。おまえのストレスの発散で他人の心をえぐるなよ。わかるだろ、オレの言いたいこと。おまえら、そこまでバカじゃねえだろ」
「マインドボイスは、誰もが気軽につながれる便利なツールだ。気の合う友達を見つけて、いつでも、どこでもコミュニケーションが取れる。ひとによっては、心の拠り所になるだろう。それも大切だ。否定はしない。けど、その一方で、怖ろしい暴力装置にもなり得る。だから、刻んでほしいんだよ。右にならって吐いた何気ない一言が、相手を深く傷つけるかもしれない。独りよがりに かたよった正義感が束になることで、いとも簡単にひとの命を奪えるかもしれないってことを、そこにいるきみに、これを見ているあなたに、一人ひとりの胸に刻んでほしいんだよ。他人に同調するより、他人をけなすより、まずは自分を律して、みがいて、作っていくことが大切なんじゃないのか。てか、そっちのほうが楽しいだろ。その目も、口も、手も、誰かを傷つけるためにあるわけじゃない。誰かと喜びを分かち合うために、誰かと幸せを噛みしめるために あるんじゃないのか。そうだろ。もっと、ひとに優しくなろうぜ。もっと、自分を大事にしようぜ」
「オレの言葉がどれだけ届いているのか・・・。きっと、ほとんどの人間には痛くも かゆくも ないだろう。でも、誰かひとりでいい。きみ ひとりでいい。感情に任せた言葉が、景山澪奈のような犠牲者を作るかもしれない。そう思って、踏みとどまってくれたら、オレがいまここに立っている意味がある。そして、いつかきっと、そのひとりが10人になって、100人になって、1000人になっていく。オレはそう信じてる。だから、どうか・・・だから、どうか、あなたに届いてほしい」
日本テレビ／2019年3月10日放送
【脚本】武藤将吾
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