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ミステリと言う勿れ・第1話 [ミステリと言う勿れ]

「なにもしてない ぼくを冤罪に落とし込むほど、警察はバカじゃないと思ってますから。それとも、バカなんですか」



「ぼくは偏見のかたまりで、だいぶ無茶なことを言いますが・・・おじさんたちって、とくに権力サイドにいるひとたちって、徒党を組んで悪事を働くんですよ。都合の悪いことを隠蔽したり、こっそり談合したり、汚い お金を動かしたり。そこに女のひとが ひとり交ざっていると、おじさんたちは やりにくいんですよ。悪事に加担してくれないから。鉄の結束が乱れるから。風呂光ふろみつさんがいる理由って、それじゃないですか? おじさんたちを見張る位置――。男のロマン至上主義の人たちに交ざれないって、困ってるんでしょうけど、至上でも なんでもないんで。あなたは違う生き物なんだから、違う生き物でいてください」



「例えば、AとBがいたとしましょう。あるとき、階段でぶつかって、Bが落ちてケガをした。Bは日頃からAにイジメられていて、今回も わざと落とされたのだと主張する。ところが、Aはイジメてる認識など まったくなく、遊んでいるつもり。今回も、ただ ぶつかったと言っている。どっちも嘘はついてません。この場合、真実ってなんですか。(中略) イジメていないというのは、Aが思っているだけです。その点、Bの思い込みと同じです。ひとは主観でしかものを見られない。それが正しいとしか言えない。そこに一部始終を目撃したCがいたとしたら、また さらに違う印象を持つかもしれない。神のような第三者がいないと、見極められないんですよ。だから、戦争や紛争で、敵同士で、したこと、されたことが食い違う。どちらも嘘をついていなくても、話を盛っていなくても、必ず食い違う。AにはAの真実がすべてで、BにはBの真実がすべてだ。だからね、青砥あおとさん。真実はひとつなんかじゃない。2つや3つでもない。真実はひとの数だけあるんですよ。でも、事実はひとつです。この場合、AとBがぶつかって、Bがケガをしたということです。警察が調べるべきは、そこです。ひとの真実なんかじゃない。真実とかいう あやふやなものに とらわれているから、冤罪事件とか起こすんじゃないでしょうか」



「聞くところによると、やぶさんは刑事の仕事に命を懸けて、家族を顧みず、家には ほとんど帰らなかった――。おそらく、息子さんの行事にも なにひとつ参加してないんでしょう。ひき逃げに遭ったときも、病院に駆けつけなかった。怖かったんですよね、死に目に会うのが。現実を見るのが怖かった。刑事としての薮さんの代わりはいくらでもいるのに、そこは無視した。それほど大事だった刑事という仕事も、復讐のためなら捨てられるんですね。復讐のためなら、時間を作れたんですか。どうやって寒河江さがえに たどり着いたか わかりませんが、膨大な時間と努力がいったはずです。しかも、それは仕事とは別だった。死に目に駆けつける時間はなくても、その時間は取れたんですね。なぜなら、仕事と復讐のベクトルは同じだから。あなたにとって、やりがいがあることだった――。でも、生きてるときに、家族に関わることは やりがいを見出せなかったんでしょう? 薮さん、生涯で お子さんの名前を何回 呼びましたか? さっき、(復讐を遂げて)奥さんと お子さんが喜んでくれるって言ってたけど、そうでしょうか? ぼくが子供なら、こう思う。『お父さん、なんだか楽しそうだね。あんなに、忙しい、忙しいって言ってたのに・・・刑事の仕事は なにより大事で、そのためにすべてを犠牲にしてきたのに・・・お父さんが忙しいって言ってたのは、ぼくらに会いたくなかったからで、ぼくたちが死んだら、もう忙しくなくなったんだね』って」



「(あなたは)服の下に腹巻きもしてる。足首にもウォーマーをしてる。新しいものじゃない。奥さんが用意してくれてたんでしょう。奥さんは あなたの無事を祈り、体を心配してた。あなたは それをしてあげたことはありましたか? 奥さんの好きな花を、仏壇やお墓に飾ってあげてますか? お子さんが好きな食べ物を供えてあげてますか? そもそも なにが好きか知ってますか? 復讐じゃなく、そういうところに時間を使いましたか? まず、それをしてみたら どうですか。いまでも見つかるはずです・・・家の中に、写真の中に、おふたりの好きなもの」



「メジャーリーガーや監督は、試合を ときどき休むんですよ。奥さんの出産はもちろん、お子さんの入学式や卒業式、家族のイベントで休むんです。彼らは立ち会いたいんです。行かずには いられるかって感じで、行きたくて行くんです。でも、その試合の中継を見ている日本の解説者が、それについて なんて言うかっていうと、『ああ、奥さんが怖いんでしょうねえ』――。彼らには、メジャーリーガーが行きたくて行ってることが理解できない。なぜなら、自分はそう思ったことがないから。無理やり行かされてると考える。大切な仕事を休んでまで、と。メジャーリーガーは子供の成長に立ち会うことを、父親の権利だと思い、日本の解説者たちは義務だと思っている。そこには天と地ほどの差があるんですよ」



「子供を産んだら、女性は変わると言いましたよね。当たり前です。ちょっと目を離したら死んでしまう生き物を育てるんです。問題なのは、(父親である)あなたが一緒に変わってないことです。でも、それは強制されることではないので、池本さんの好きにしたらいいと思います。したことも、しなかったことも、いずれ自分に返ってくるだけですから」



「子供が『お父さんに かまってほしくて、グレました』なんて、ドラマの中だけのことですよ。実際は、ただただ無関心になっていくだけです」



「ぼくは ただの学生で、探偵でも、その助手でもないんですよ。刑事でも、検事でもないし、検視官でも、科捜研でもないし、弁護士でも、作家でも、大学教授でも、陰陽師でも、家政婦さんでも、塀の中の有名な殺人鬼でもないんです」


フジテレビ/2022年1月10日放送
【脚本】
相沢友子/【原作】田村由美
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