仮想儀礼・第3話 [仮想儀礼]
「あのひとたちは いま 張りぼて ご本尊を拝み、悩みの解決に お金を払っている。(中略) 教義だの、儀式だの、ぶっちゃけ なんでもいい。たまたま いい話になったから、ちょっと宗教っぽい気分になってるだけ。要は、彼女らが求めてるのは現世利益だよな。病気を治せとか、家庭の不和を解消しろとか、居場所が欲しいとか、もう悲しいぐらい典型的。だから、教義も小難しい用語なしで、暮らしにフィードバックできるもの(を用意したほう)がいいだろう」
「インチキ宗教って、やたら簡単に ひとが救われるんですよね」
「(お布施の額に こだわらないのは、教団を)始めたばっかだからでしょ。サブスクだってそうじゃない? 最初は定額980円で入会を募って、やめられなくなったら一気に値上げするの」
「信者か・・・重いな。誰かがオレのこと全力で信じるんだぞ。怖くないか。(中略) 極端な話、オレが命令したら、毒ガスだって まくかもしんない・・・オレのこと 信じちゃってるから。(核兵器を手に入れたような気分?)逆だよ。まるで生まれたての赤ん坊を手にしたみたいだ」
「おまえは子供だから本当のことを話しておく。宗教をやってるとこのトップなんてのは、一見 穏やかな顔をしていても、分厚い面の皮を一枚ひんむいてみりゃ、ヤクザみたいなやつは いくらでもいる。用心しろ」
「親と警察に相談して、(クラスメイトに)金を奪われたことと、暴行を受けたことを、洗いざらい話せ。おまえはイジメられてるんじゃない。暴行と恐喝という犯罪の標的にされたんだ」
「恵法三倫会は信仰に競争原理を持ち込んでるんですよ。回向法儒は経営学部中退でしょ。学生仲間と立ち上げたベンチャーが詐欺で摘発されて、そこから宗教ビジネスに入ってきた。信者同士(を献金額で)競わせたり、富裕層の学生ばかり狙って入信させるやり口――。はたから見てたら、かなり露骨ですけどね」
「あなたは今日、なにひとつ罪を犯しませんでしたか。世間的に見て、立派だとされる仕事があって、そうした仕事をしてるひとたちの社会的地位は高い。しかし、彼らは罪を犯していませんか。経営合理化を理由に、何百人もの人々の首を切る最高責任者もいれば、大きな工場でミサイルの電子部品を作る方々もいる。彼らは罪を犯していませんか? わたしたちは生きてること自体が罪なんですよ。そうした中で、生きるために酒をつぐことを生業とした女性たちを差別し、排除することが本当に人の道に照らして正しいと思いますか」
「きみと きみの兄さんの関係は、兄からの性的虐待だったと思う。きみは悪くない。キレていい。怒っていい。いや、怒れ。きみには怒る権利しかない。いつの間にか そうなったとか、自分も楽しんだとか、そういうのはフェアじゃない。なぜなら、兄は兄だから。きみは被害者だ」
「ひとを裁きたいのなら、別の場所に行きなさい。ここは共に祈るところです」
「麻子さんのしてることって、結局は無病息災、商売繁盛を願ってるだけですよね。現世利益のために信仰を利用してるってだけです。そこに、本当に苦しんでるひとたちへの配慮や、思いやりってないんですか? 信心すれば得をするって考え方、あたしは信仰だと思いません」
NHK BS/2023年12月17日放送
【脚本】港岳彦/【原作】篠田節子
※ 1段目は2名による連続した台詞をつなげたものです
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