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とと姉ちゃん・第87話 [とと姉ちゃん]

「わたしは戦地で戦う友のため、国のために尽くそうと、ペンを執り、言葉を選んだ。ポスターも書いた。なんの疑いもなく、一億一心の旗を振って、戦争に勝つことだけを考えて仕事をしてきた。だが、去年の8月15日――。そのとき初めて気づいたんだ。小さいころから、なによりも正しくて、優先して守るべき大事なものがあると言われていたことが、実は間違っていたんじゃないかと。そして、それまで言葉にはひとを救う力があるものだと思ってばかりいて、言葉の力の持つ怖さのほうに無自覚のまま、それにかかわってきてしまったのではないかとね」



「爆弾は怖いが焼夷弾は恐るるに足らず、という言葉を教えられただろう。その言葉は印刷され、回覧板で回され、皆それを目にした。新聞や雑誌の記事にもなった。だが、それは誤った言葉だったんだ。爆弾は怖いが、焼夷弾は恐るるに足らず? とんでもない。焼夷弾も恐ろしい爆弾に変わりはなかった。それを伝えてしまうと、誰も火を消そうとせず逃げてしまう。火災はますます広がる。それを怖れて、あえて誤った言葉を教えた。それを信じた人々はどうしたか。落ちてきた焼夷弾の火を消そうと必死で、焼夷弾は怖くないと信じ込んだ子供たちが、老人が、女たちが、バカ正直にバケツで水を運んだ。気がついたときには、逃げ道はなかった。最初から逃げていれば、ムダに死なずにすんだのに。わたしも、もし戦時中に 『焼夷弾は怖くない』 と書けと言われていたら、書いていただろう。そうしたら、それを信じた無辜むこの命をどれだけ奪っていたかわからん。言葉の力は怖ろしい。子供のころから、ひとの役に立ちたくて、ひとを救いたくて、ペンを握ってきたはずだったのに、そんなことも わからずに、戦時中、言葉にかかわってきてしまった・・・」


NHK/2016年7月13日放送
【脚本】
西田征史
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