越谷サイコー [単発]
「越谷は のどかでありながら、利便性を追求した住みやすい街なんですよね？ だけど、都心にも そういう街ありますよね。（ただし、そういうところは一戸建ての値段が高い――。）そこなんですよ。ホントは都心に住みたいけどムリだから越谷で我慢するっていう、それがイヤなんですよ。見栄を張りたいわけじゃなくてね、例えば将来、子供に『なんで越谷に引っ越したの』って聞かれたとき、『諸々、我慢して、妥協を重ねた上に たどり着いた あきらめの街、それが越谷だったんだよ』とは言いたくないんですよ。仕方なく越谷じゃなくて、どうしても越谷なんだ――。そう思える越谷の良さ、教えて欲しいんですよ」
「良枝ちゃんから聞く限りだと、外もいろいろ変わっちゃってんでしょ。古くていいものはなくなり、人情はビルディングとやらに押し込まれ、町民たちはみんな無表情で、食事をしながらスマホを見るんでしょ。若者はもう みんなスマホに魂を乗っ取られながら生きてるって聞いてるよ」
「あの家を歴史の抜け殻として残してほしいわけじゃないんだから。オレたちが生きてた時間を、終わった時間として扱ってほしくないの。いまにつながる生きた時間として扱ってほしいの。そうじゃなかったら、オレたちが頑張ってた時間は なんだったんだっていう話になるじゃない」
「これから先、あんたがふっと孤独を感じて、自分の存在があやふやなものに思えたとき、自分には過去からつながる人や歴史があるんだってことを、思い出してほしいの。自分は なんにもないところからパッと生まれたんじゃなくって、つながって、つながって、いまここにあるんだってこと、思ってほしいの。そうすれば、自分も大切にできるし、過去につながる いろんなものたちも、大切にできるでしょ」
「おふたりがこの土地で毎日を幸せに暮らす。その積み重ねが、いつしか歴史と呼ばれるものになって、その歴史が、お子さんにとって自分を支えるプライドになるんです。ここを そういう家にするのは、あなたですよ、お父さん」
NHK BSプレミアム／2018年2月28日放送
【脚本】櫻井智也
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