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京都人の密かな愉しみ Blue 修業中「門出の桜」 [単発]

「越える壁は、高いほどええ」



「京懐石は交響曲に似てるんやて。それが うちの初代の口癖やったらしいわ。ベートーベンの第九は最後の『歓喜の歌』だけ聴いたらええ いうもんやない。第一楽章から順々に聴いてこそ、聴き終わったときに ほんまもんの感動が得られる――。京懐石も おんなじ」



「日常的に登り窯を使う京焼の窯は、いまはもう ほとんどない。デカすぎて場所を取る。大量にまきを使うから、たこうつくし、煙が近所迷惑。火力調節が難しいから、出来上がりが不安定。まる二日 寝んと火の番せなアカンし、めちゃくちゃキツイ。にもかかわらず、登り窯で焼いてみたい言うアホが、あとを絶たん。わしも そのアホのひとりや。あの なんとも言えん灰の景色、ゆう窯変ようへん・・・そんな器が、千にひとつでも焼けたのを見てしもうたら最後、とりこになる。登り窯の神さんは、全身全霊で向き合うやつにしか微笑まん」



「ぼくと釉子ゆうこちゃんの、いちばんの違いは なんやと思う? ビジョンがあるか、ないかの違いや。釉子ちゃんの頭の中には、作りたいものが、こう、はっきりとした輪郭で、次から次に浮かんでくるやろ? そういうのは、一握りのアーティストしか持ってへん特別な感覚やねん。修行して身につくモンやない。釉子ちゃんが弟子入りしたときから、そう思うてた。ま、嫉妬やね。羊山ようざん先生には、それがわかってた。ほかの弟子より厳しく接したのは、きみにしか わからへん頭の中のイメージを、具体的に実現する技術を身につけさせるためや」



「『潮時』いう言葉がある。(中略) 船出するのに、いちばんええタイミング いう意味や。弟子の船出の潮時を計るんは、師匠の最後の仕事や。情に引かれれば、潮時を誤る」



「庭のことしか わからんようでは、一流の庭師とは言えん。建築、美術、茶道、陶芸――。外国の造園技術を知ることもええ。どれも、外に出んと わからんことばかりや。外に出て、自分のやるべきことを見つけなさい。その上で、京都の庭師が自分の天職や思うたら、戻ってこい。わしは それまで死なんで待っといたる」


NHK BSプレミアム/2022年5月28日放送
【脚本】
源孝志
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