闇の伴走者 ~編集長の条件・第5話(最終回) [闇の伴走者]
「(酒を飲むと)荒れるか、泣くか、自分をほめるかの、どれかなんだけどね」
「マンガ(を作るの)って難しいけどさ、たかがマンガだよ。『たかがマンガ』を言い換えるなら、たかが仕事だ。オレは南部さんほど、マンガにむいてないやつを落伍者扱いする気はない」
「編集長として、いちばん大切な仕事はなんなのか。いちばんは部数を上げることじゃない。部下を幸せにすることだよ。そいつらに、オレの任期中、マンガを作ることは面白い。マンガ編集者になってよかったって、そう思わせることだ」
「下を裏切り、上に裏切られたとき、ひとは簡単に死ぬ」
「雑誌には色がある。『漫画ブレイブ』はブルーカラー向けのマンガ誌として出発した。例えば、ラーメン屋に常備してある本だ。ヤクザやギャンブル、風俗、そういうものに興味を持つ読者が対象だった。だが、大人向けマンガ自体がブームになり、マンガへの偏見も弱まり、インテリ層も手に取るジャンルに成長したとき、『ブレイブ』の部数を伸ばすチャンスが訪れた。ブルーカラー向けマンガはそのままに、ホワイトカラー向けの複雑なストーリー漫画も導入したんだ。結果は大成功だった。それがこれまでの『ブレイブ』の変遷と歴史だ。南部正春はいまの時代を水色と定義した。ブルーカラーとホワイトカラーの境目がなくなった時代だという意味だ。その水色読者に向けて、彼らを元気にし、鼓舞するというコンセプトだった。日本をもう一回 見直そう、愛そう、というメッセージもあった」
「大人向けマンガ誌は、毎号 購入する愛読者が二分の一。たまに購入する読者が四分の一。残りの四分の一は、気が向いたら手に取る 気まぐれな人種だ。だが、その読者全員を満足させるマンガ誌を作らなければならない。むかしの大人向けマンガ誌は、正月やゴールデンウィーク、夏休みに部数を伸ばした。いまは一部も伸びない。なぜなら、続きものばかりで、読み切りじゃないからだ。毎回、読み切りなら、どんな物語か たまに手にする読者にもわかる。これらが南部正春が考えた、絶対に勝てる大人向けマンガ誌のノウハウだよ」
「きみは(編集)部でいちばん若い。若いひとは失敗する権利がある。これから いろんなことを、たくさんチャレンジして、たくさん失敗してくれ」
「個々のマンガではなく、雑誌全体のバランスを見てデザインできるやつ、ひとの才能に嫉妬しないやつは、そういない。(だから、おまえは編集長にむいている)」
WOWOW/2018年4月28日放送
【脚本】阿相クミコ/【原作】長崎尚志
闇の伴走者 ~編集長の条件・第4話 [闇の伴走者]
「人間なんて、すぐ自分が嫌いになる。すぐ自分を責めて、死にたくなるもんだ」
「言いたいことが言えない関係なんて、(仲が)悪くなるっていうより、もう終わってるぜ」
「ひとは出会いと別れの生き物だ。別れることを怖れちゃいけない。怖れず相手に自分の意思を伝える。それで一発逆転できる可能性もある。できなきゃ、あきらめる」
WOWOW/2018年4月21日放送
【脚本】阿相クミコ/【原作】長崎尚志
闇の伴走者 ~編集長の条件・第3話 [闇の伴走者]
「マンガ編集者になるのが夢だったんです。だけど、オレなんか太刀打ちできない才能の世界だってことは、入ってすぐ気づいた。この業界って、素質のない人間はとっても暇で、ラクなんです。でも、才能のあるやつは考えることもたくさんあるし、担当の作家も、新人もいっぱいいるから、死ぬほど忙しい。オレの場合、どう努力していいかもわからなくて、すごく暇です」
「マンガ界で充分 生き残れる技量があっても、消えていく作者がいるのなぜなんでしょう」
「マンガってのは、苦痛を伴う作業だ。だから、ある日 突然やめたくなる。気力も体力も尽きたってやつだ。この苦痛がわからないばかりに、編集者とマンガ家はどんなに気の合うパートナーだろうと、友達にはなれない」
WOWOW/2018年4月14日放送
【脚本】阿相クミコ/【原作】長崎尚志
闇の伴走者 ~編集長の条件・第1話 [闇の伴走者]
「マンガ編集者には、ふたつのタイプがあります。ひとつは、雑誌全体をデザインすることに全力を傾ける編集長タイプ。もうひとつは、マンガ家と一緒になって、マンガをヒットさせることに全力を注ぐタイプ」
「(マンガ編集者たる者、一度は編集長をやってみたいと)最初はそう思うんでしょうね。編集長こそが、野球で言えばエース。相撲で言えば横綱だって。でも、じきにわかります。実際は しがない中間管理職にすぎないって」
「長く連載が続いてるマンガは、マンネリに見えてマンネリじゃない。読者に気づかれないように努力して、工夫してるんだ」
「主人公のこの決めポーズ、規則違反だぞ。これは『挙手注目の敬礼』っていうんだ。外国の軍隊や警察官と違って、日本では『挙手注目の敬礼』は帽子をかぶってるときにするもんだ。帽子をかぶってない刑事は、体を15度に曲げる。つまり、きちんとしたお辞儀が、正式な敬礼ってわけだ。(とはいえ)この決めポーズで何年も前から読者の心をつかんでるんだ。いまさら訂正はムリだな。このままでいこう。だが、編集者たる者、知っててやってるのか、知らずにやっているのか。オレが言いたいのはそういうことだ」
「『ブレイブ』の読者は大人だろ。毎日、忙しく働いてる大人が、前回の(マンガの)展開がどうだったかなんて、ほとんど覚えちゃいない。だから、前の回がどうだったか、必ず思い出すコマを数カット用意しなきゃダメなんだ」
「(マンガ誌が苦戦しているのは)強力な敵が現れたからだと思います。ライバルはスマホにインターネット。ああいったツールの出現によって わかったのは、ひとが いちばん好きなのは自分自身だということです。多くのひとは他人から認められたい、好かれたい、尊敬されたいと思っています。でも、むかしは有名になるのが難しかった。だから、偉大な人物や英雄から学んだんです。本や映画・・・たとえばヒーローを主人公にした こういったマンガから。ところが、いまはどうです。SNS全盛の時代。なにか発信すれば、簡単に賛同が得られる。なにがフォロワーですか。なにが『いいね』だ。電車の中 見てください。マンガ本ひらいてるやつなんていません。ほぼ全員スマホを見ている。みんなみんな自分が好き。ネット界は小さな英雄であふれている。憧れや向上心がなくなれば、もう目指すマンガのヒーローなんて必要ないんです」
WOWOW/2018年3月31日放送
【脚本】阿相クミコ/【原作】長崎尚志