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やすらぎの刻 ~道・第200話 [やすらぎの刻]

「向井さんはパーキンソン病で、それに老衰が加わって、3日ほど前に意識を失くしたんです。われわれとしては、このまま静かに息を引き取られるのを お待ちするのが最善の策と考えました。ところが、まったく音信のなかったお嬢さんという方が見えまして、なんとか少しでも命をつないでほしいと言い出したんです。つまり、胃瘻いろうによる治療です。腹部の表面と胃壁に小さな穴を開けてカテーテルを通し、そこから栄養を送り込む方法です。たしかに、それをすれば物理的に延命することは可能です。しかし、ご本人に意識はありませんし、よくなる可能性も まったくありません。しかも、それをしてほしいという娘さんは こちらに任せっぱなしで、看病しようという気配もありません。ただ生かせられるなら生かしておいてやりたいと、感情的に言われるばかりです。ご家族が望まれるのに胃瘻をしなくて亡くなったら、保護責任者遺棄致死罪として、つまり不作為の殺人として、(医師の)わたしが刑法で罰せられることになります。刑法218条と219条です。明治時代に作られた法律です。(中略) 周囲はともかく、患者本人にとって、それは果たして望ましい道なのか。そういう疑問をわたしは持ってきました。(中略) でも、ご家族に頼まれた以上、医者としては逆らう術がないんですよ」


テレビ朝日/2020年1月21日放送
【脚本】
倉本聰
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