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行列の女神 ~らーめん才遊記~・第7話 [行列の女神]

「(とんこつラーメンは わざとアク取りをせずに、臭みを残したりするし、煮干しの頭や はらわたを取らずに、わざと苦味を生かすこともあるけど、それは)味の話だけではないですよ。濃厚さを目指すために、ペーストのようなドロドロのスープを使ったり、ボリューム系では食べきれないほどの量を盛ったり・・・。ひとによっては、もしかしたら抵抗を感じるかもしれない――。そういうスリリングな側面が多くのひとを病みつきにする。それがラーメンの持つ魅力でしょう」



「あなた、たしかに汐見しおみみたいな天才型じゃないわ。凡人よ。ひと一倍 努力して、セオリーを踏まえる――。でも、そこから少しでも はみ出そうとすると、とたんにダメになるわ。でもね、凡人には凡人の戦い方ってものがあるでしょ。職人にとって、いちばんの敗北は、センスがないことなんかじゃない。歩みを止めてしまうことよ」



「『麺房めんぼうなかはら』の いちばんの問題点は、食事満足度の低さ。(中略) 1990年代のラーメン ニューウェーブのころ――。そのころ増え始めた女性客を意識して、(あなたの店は)あっさり、上品、ボリューム控えめを売りにされてた。そのころと同じ感覚でやってれば、(いまの客足の減少は)当たり前の結果です」



「あたしは凡人ですから、空から ひらめきが降ってきたりはしません。だから、とことん 地べたに こだわることにしました。自分の中に蓄積されてきた体験や記憶、積み上げてきた努力や試行錯誤、そういうものを足場にして、考えて、悩んで、動いて、職人として高みを目指します」



「中原さんが名古屋コーチンの『丸鶏拉麺まるどりラーメン』で注目を集めていたころ、あたしはアユの煮干しを使った薄口醤油ラーメンで勝負をかけてました。でも、その勝負に勝つことはできなかった。スープが薄くて、コクも、パンチもない まずいラーメン――。それが、わたしの薄口醤油ラーメンに下された評価だった。ある日、やけになってラードをぶち込んだラーメンを客に出したら、客はそれを『うまい』と大絶賛した。(ラードなんか入れたら)アユの煮干しの繊細な風味は消し飛ぶわよ。でも、客は大喜び。で、ラードからニンニクを揚げたヘッドに変えて・・・それから店は大盛況。濃い口しょうゆラーメンは『らあめん清流房せいりゅうぼう』の、芹沢達美たつみの代名詞になった。わたしは理想と現実の間で戦っています。(中略) かつて100点満点だった『丸鶏拉麺』を、いまも100点満点だと信じて しがみついてる あなたは、あたしのライバルなんかじゃない」



「料理は普通、バランスを整えるものですけど、ラーメンはその逆。アンバランスであることが “ワクワク” の正体なんじゃないかって」


テレビ東京/2020年6月1日放送
【脚本】
古家和尚/【原作】久部緑郎
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