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舟を編む 〜私、辞書つくります〜・第7話 [舟を編む]

「ご老人にデジタルの雑誌はムリ? 侮辱でしょ、それは。むしろ、ご老人にこそデジタルだ。文字を拡大できるし、明かりも調節できる。読み上げ機能も使えるし、軽いし、場所も取らないし、ムリに本屋に行かなくても、その場で読みたい本が買える。旅先で何冊も読書三昧なんてことも、気軽にできる。馴染みがない、難しいと、アナログに閉じ込めてたら、一生 それを享受できないんだよ、ご老人は。時代はね、奪うだけじゃない。それ以上のものを並べてくれる。受け取れるかどうかは、こちら次第ね」



「年 取るってさ、いいこと いっぱいあるんだけど、そのうちのひとつが『その先』が見れることだと思うんだよね。生きてるとさ、自分にも、まわりにも、いろいろ起きるでしょ。くっついたり、離れたり。うまくいったり、失敗したり。若いときって、それがゴールっていうか、結果みたいに見えるでしょ、生きてきた・・・(いまいる)ここで起きるから。でも、また ここから5年、10年って生きてくとさ、その先が見えるわけ。離れた ふたりが またくっついたり、(中略) 挫折が本当の夢のはじまりだったり」



「(わたしがデジタルのデメリットを主張しないのは)二者択一ではないからです。デジタルは紙の上位互換ではありませんし、その逆でもありません」



「われわれは いま多様性の時代を迎えています。多様性とは、異なるものが幅広く存在すること。紙の辞書の存在をなくすということは、時代に逆らう行為なのではないでしょうか。(中略) (また、)中型辞書の編集、組版、紙、印刷、製本、製函は、すべて特殊な技術を要します。継承されず途絶えてしまったら、産業自体が失われることにも・・・」



「辞書は隠れたベストセラーと言われています。たしかに各社、中型辞書の売り上げは年々 落ちてはいますが、単行本は5万部いけば大ヒットのこの時代、静かに数万部 売れ続けているのが辞書なんです。需要はあります」



「(勝算は)あります。作り続けることです。継承して絶やさず、作り続けていれば、いつか『大渡海だいとかい』は世界で最後の紙の中型辞書になるかもしれません。そのときこそ、われわれ玄武書房のひとり勝ちです。(何十年かかるか)わかりません。ですが『冬来たりなば春遠からじ』――。春は必ずやってきます。氷河期ですら終わりましたので。社長、お忘れですか。わが社の社名『玄武』とは(冬の守り神)。かつて雪しまく中、あなたを守った本は、いまあなたに守られ、やがて冬を越えるでしょう」


NHK BS/2024年3月31日放送
【脚本】
蛭田直美/【原作】三浦しをん
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