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ここは今から倫理です。 ブログトップ

ここは今から倫理です。・第8話(最終回) [ここは今から倫理です。]

「一人ひとりに意見があって、それすべてに一理ある。共同体を維持するために、誰かに我慢を強いていいのか。正しさを守るために、ひとを傷つけていいのか。自分の意志は他人の意志より尊重されるべきか。たったいま この教室に渦巻く葛藤は、世界中に渦巻いている。この教室はせまく、閉ざされた空間ですが、しっかりと世界とつながっている・・・あなたたちの思考によって。パスカルは言いました。『人間は考える葦である』――。人間は葦のように弱いが、広大な宇宙をとらえるほどの思考の力を持っている。われわれの尊厳のすべては、考えることの中にある。ですから、考え続けて下さい。思考し続けて下さい。自分のことだけじゃない。目の前にいる相手の気持ちを。見も知らぬ、遠い異国の人のことを。過去に生きてきた人たちのこと。これから生まれる、未来に生きる人たちのことを。世界は広大で、宇宙はどこまでも広がっていますが、あなたたちは その果てまでも飛んでゆくことができる」



「いろんな考えの人がいる。わたしにとっては正しいことが、ほかのひとには間違ったことで、ほかのひとが気持ちよくなるために、わたしはイヤな思いをしたりする。同じ世界に生きてても、同じものが見えているとは限らなくて、同じものを見て、同じように考えていても、わたしたちは同じ人間じゃない・・・。わたしはわたしで、きみはきみで、その点は すれ違ったり、近づいたりすることはあっても、ひとつになることはない・・・空に浮かぶ星みたいに。人間って、さみしいね。生きるって、なんて独りぼっちなんだろう。だから、少しでも そばにいたい。わかり合えなくても、ひとつになれなくても、体温や息づかいを感じられるところまで近づきたい。独りぼっち同士、そばにいようよ」



「(『逢沢さんなら、きっと いい人が見つかります』とか、)そういうの やめてよ。『若いから、これから いっぱい出会いがあるよ』とか、『恋と あこがれを間違えてるんだよ』とか。(中略) 先生がわたしをフルのを、わたしの若さのせいにしないで。だって、それは わたしのせいじゃないもん。わかんないよ・・・ 先生には わかんないよ。わたしが どれだけ先生のこと好きなのか。世界は広げたいよ。いろんなこと知りたい。でも、出会いは これで終わりでいいよ」


NHK/2021年3月13日放送
【脚本】
高羽彩/【原作】雨瀬シオリ
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ここは今から倫理です。・第7話 [ここは今から倫理です。]

「ソ連の社会主義は うまくいかなかった。結局、人間は全員平等という競争のない社会では、努力をやめた――。結果、経済が回らず、最終的に破綻した。現在 残っている社会主義国家は ごくわずか。その上、どの国も当初の社会主義の形は残していない。(中略) 時代や社会、場所や立場によって、なにが正義と見なされるかは変わる。政治や経済に関する主義主張は、今日 説明したもの以外にも無数にあります。そのすべてが不完全だからこそ、いまなお真の幸福な社会を目指して人々は考え続けているのです」



「失敗した国があって、みんな次々に主義を変えたのに、いまだに社会主義は残ってるって(不思議です)。やめればいいのに、やめないだけの なにかが あるってことなんですよね、きっと。(ころころ変えられるものじゃないから)大変なんでしょう、きっと。まわりの国から浮いちゃって・・・。わたしも よくわかります、どうしても(クラスに)なじめない感じ」



「べつに 『みんなで一緒』が悪いと思ってるわけじゃないんだけど、なんか居心地が悪いんです。意味もなく仲がよくて、つまんないことで騒いで、みんなが おんなじノリで・・・。『みんなで青春』って、同じことを叫んでるのって、不気味なんです。みんなの前でわたしが消されちゃうみたいで、なんか怖いの」



「結束力の強い集団の怖いところは、異端分子がいれば、猛烈に排除しようとするところ――。個人は集団の中に紛れ、その存在は消えてしまう。すると、気が大きくなりはじめて、個人では とてもできない むごいことを、集団では できてしまう・・・。集団の前に、個人の意思や権利や尊厳を軽視するようになったら、それは全体主義という名の怪物となる。(ただし、)イジメに発展しない健全な結束力なら、大いに結構。集団でしか成し遂げられないことは多い。ある程度、受け入れなければ(なりません)。もちろん、盲目的に同調しろと言ってるわけではありません。許容できる範囲内での受容です。どんな主義主張でも、最後に目指されるのは幸福のみ。どうすれば より多くの幸福を実現できるのか、考えましょう。それが倫理です」


NHK/2021年3月6日放送
【脚本】
高羽彩/【原作】雨瀬シオリ
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ここは今から倫理です。・第6話 [ここは今から倫理です。]

「こちらの愛も、誠意も、むこうが求めているのでなければ、そんなもの、彼らにしてみれば いらないんですよ。お節介です」



「勉強は なにも受験勉強のことだけを言うんじゃありません。図書館を歩いて、面白そうだと思った本を手に取り、読むことも、あそこには なにがあるだろう・・・そう思い、そこへ冒険しにいくことも、すべて勉強。勉強は本来、すごく楽しいことなのですよ」



「田村くんは いま大学へ行くためにだけに勉強をしているのですか。あなたは本当にその大学に行きたいと思っている? (中略) あなたはエライ。努力をやめずに、(あなたのために時間とお金をかけてくれる優しい)お母さんを大切に思っていて・・・。エリック・ホッファーは言いました。『他者への没頭は、それが支援であれ、妨害であれ、愛情であれ、憎悪であれ、つまるところ自分から逃げるための手段である』と。大学へ進んだら、あなたは自分のための勉強をして下さいますか。あなたは努力ができて、親思いで、とても立派なひとです。どうか、そんな自分をいちばんに愛して、自分のために生きてくださいね」



「わたしたちは言葉の力を信じすぎているのかもしれません。どんなに言葉を尽くして語り合っても、お互いの思い すべてを捉えられるとは限らない。理解し合えたという幻想のもとに、お互いの無理解が加速していくこともある。曽我くんは “言葉の力” というのに とても慎重で、だからこそ “言葉を発しない” という決断によって、この世界と誠実に向き合おうとしてるんじゃないか・・・なんて。こんなふうに言葉であなたを語る行為自体が、ナンセンスかもしれませんね。(中略) 『われわれは他人と同じになるために、厳しい自己放棄によって、自身の四分の三を捨てねばならない』とショーペンハウアーは言いましたが、あなたは決して他人と同じになろうとはしてない。四分の二くらいの気がします・・・捨てていたとしても」


NHK/2021年2月27日放送
【脚本】
高羽彩/【原作】雨瀬シオリ
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ここは今から倫理です。・第5話 [ここは今から倫理です。]

「女に助けを求められたとき、女に愛が欲しいと泣きつかれたとき、高柳、おまえなら どうする? いちばん手っ取り早いのは、その女を抱いちまうことだ。即効性は抜群だし、むしろ、その手の解決以外、知らないやつのほうが多いだろう。だが、それは明日の食費がないやつに、500円玉をあげるみてえなもんだ。あさっては? しあさっては? そいつは、毎日 飢えている。教師なんかになったら、そんなのが同時に5人も10人もいたりする。高柳、こんなとき、われわれが おこなうべき、最高の善とは なんだ?」



「なにも(彼が傷つくようなことは言っていません)。ただ。体の触れ合いを さけただけです。たとえば都幾川ときがわくんが女子生徒だったら、あんなに くっつかれたら、わたしのセクハラに見られてしまっても、おかしくはないですよね。男同士だからといって、セクハラではないという確証もないですが・・・。(中略) 男子なら救える、女子では救えない――。対象が変わったら通用しなくなる救いなんて、正しくない。目の前の安易な救いに飛びついて、救いたい側だけが満足する。それは、救いたい側のエゴなのでは・・・」



「リストカットが、どんなものかは知っている。けれど、彼女がしていたのは知らなかった。知りようもないでしょう・・・常に隠されていたから。教えてくれなければ、一生わかりませんよ、われわれは他人なのだから。(わからないなら、知る努力をしろ?) なんのために? 半年かけて、何度も、何度も、倫理について語りかけた。正しいことがなんなのか話し続けたけれど、それでも一瞬の心 揺さぶる激情には勝てない――。わたしは彼らにとって、いらない存在なんですよ」


NHK/2021年2月20日放送
【脚本】
高羽彩/【原作】雨瀬シオリ
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ここは今から倫理です。・第4話 [ここは今から倫理です。]

「その場のノリに流されて悪に行くのは、人間として当然だ。人間の本性は悪。荀子もそう言ってる。カントだって言ってる――『人間は気ままに生きると、争う悪になる』って。そうだ、ハンナ・アーレントもな――『悪は陳腐、悪は月並み』って。誰もが当たり前のように、簡単に悪に染まっていく。それがこの世界の真理だ」



「あなたは彼らの思想を都合よく解釈しているだけです。荀子も、カントも、アーレントも、人間は当然悪だから悪を容認するとは言っていません。彼らは、だからこそ、ひとが悪を乗り越えるために、なにをすべきか語っているのです」



「アイヒマンは元ナチス親衛隊で、ホロコーストを主導した人間だ。まあ、ユダヤ人大虐殺の実行犯って思えばいい。どんなやつだったと思う? はたして、裁判で人々の前に現れたアイヒマンは、ヒトラーに心酔した狂った差別主義者だったか? 冷徹な快楽殺人鬼か? そうじゃない。やつはごく普通の、真面目なドイツ人だった。上からの命令に忠実に従っただけの、従順な官僚。わかるか。命令されたから――それだけの理由で、人間は毒ガスの噴射スイッチも、原爆の投下スイッチも、簡単に、躊躇なく押せるんだ。誰もが当たり前のように悪なんだ。そうだよな、先生。名だたる哲学者たちが何人も、人間の悪性をどう乗り越えるべきかについて、頭を悩ましてきた。そして その都度、答えも出した。それで人間は変わったか。(中略) 世界は変わったか。人間によって人間の命が奪われる。そんな悲劇は、もうこの世界じゃ起きないか。違うよな。あんただって・・・いや、あんたこそ、よくわかってるはずだ。ひとは悪を克服できない。誰もがアイヒマンで、ユダだ」



「(彼女は)学校という “正しい場所” では、あんなに死にたがっていたのに・・・。悪を憎むべきだけれど、彼女はその悪のおかげで、いまも生きている。でも、近藤くん。あなたが もし その悪に触れ、怖いと思い、学校という “正しい場所” を不快に思っていないなら、二度と こんなこと しないでください。ちゃんと考えなさい・・・自分にとって、なにが善か悪か くらい」


NHK/2021年2月6日放送
【脚本】
高羽彩/【原作】雨瀬シオリ
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ここは今から倫理です。・第3話 [ここは今から倫理です。]

「わたしは教師と生徒の恋愛が、すべて悪だとは言いません。ただ、当然 問題はあります。相手が18歳未満であれば、児童福祉法に問われます。さらに踏み込んで話すと、高校時代というのは、人生において青年期にあたります。青年期はアイデンティティを確立する その途上にある時期です。松田先生は すでにアイデンティティを確立している成人――。ですので、そんな松田先生と生徒の間で、フェアな恋愛関係が成立し得るのでしょうか。松田先生とその女子生徒の関係が、教師の持つ権力を かさに着て成立しているのであれば、それは恋愛ではなくセクハラです。ですが、もし仮に・・・仮に、ふたりの関係が本当に対等であるのならば、恋愛していいと、わたしは思っています。規則違反はいけない。いけないけれど、その規則が本当に心から結ばれたいと願うふたりを結ばせないものならば、その規則自体が『ひとは自由に恋愛していい』という社会の決まりを やぶることになるから。松田先生、あなたは いま その彼女を心から愛してしまったのですか・・・弱き者を己の性的欲求の はけ口にしているのではなく」



にして、ぜんであること――。美しいことと、いことは、同一のもので、その両方の実現を目指すべき。ギリシアの古い考え方です。ソクラテスは若者に言った。『たえず自分を鏡に映し、美しければ、それに ふさわしい者になるように。醜ければ、教養によってその醜い姿を隠すように』と。魂をくしなければ、人間はく生きることはできない」


NHK/2021年1月30日放送
【脚本】
高羽彩/【原作】雨瀬シオリ
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ここは今から倫理です。・第2話 [ここは今から倫理です。]

「あなたは自由だ。夜の町を好きに歩くことも、出たくない授業に出ないこともできる。しかし、なにも自分をそこに引き止めるものがなく、どこまでも高く飛べる自由さは、あまりにもどこまでも行けすぎて、あなたを不安にさせる――」


NHK/2021年1月23日放送
【脚本】
高羽彩/【原作】雨瀬シオリ
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ここは今から倫理です。・第1話 [ここは今から倫理です。]

「『倫理』は学ばなくても、将来 困ることは ほぼない学問です。地理や歴史のように、生活する上で触れることは多くはないし、数学や英語のような実用性もありません。この授業で得た知識が役に立つ仕事は ほぼない。この知識がよく役に立つ場面があるとすれば、死が近づいてきたときとか・・・。倫理は主に、自分が独りぼっちのときに使う。信じられるものがなくなったとき、死が目前に迫ったとき、ひとは宗教による救いを求める。悩みが絶えず、苦しい。憂鬱。わたしは何のために生きている――。むかしの哲学者たちは、生涯をかけ、悩み抜いた。男はこうあるべきとか、女はこうしなきゃダメとか、そんなこと誰が決めた。死にたい。倫理は選択科目ですが、実は、人生における必修科目です」



「花魁って、知ってますか? 江戸時代の超高級風俗嬢です。(中略) 花魁になるには教養が必要です。古典や文学、囲碁将棋、舞踊や唄や三味線やお琴、茶道、華道――。彼女たちは書道を習い、文字まで美しかったといいます。つまり、ひとを魅了するのは、なにも性的魅力だけではない ということです。まあ、もちろん彼女たちが課されていた売春労働そのものを容認しているわけではありませんよ」



「あなたが倫理の授業を選んでくれてよかった。倫理はひとの心に触れ、自分の心に触れてもらう授業です。あなたの背中に触れ、慰めることはできませんが、あなたの言葉を聞き、あなたの心に触れ、慰めることはできる」



「善も悪も、いつだって曖昧です。『善なるものはわれこれを善とし、不善なるものも吾またこれを善とす。徳は善なればなり』――。老子の言葉です。善人も悪人も、みな善人だということです。善人であるから救う。悪人であるから救わない。そうしてしまえば、あなたは いつか いじめっ子をイジメてしまうかもしれませんよ。わたしは きっといい先生じゃないけれど、あなたには なって欲しいな・・・いじめっ子も、いじめられっ子も、すべてを信じ、救える先生に」


NHK/2021年1月16日放送
【脚本】
高羽彩/【原作】雨瀬シオリ
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