アイドル

「この世界で、頑張ってないやつなんか いないんだ。それでも、スポットライトが当たる者と、そうでない者がいる――。ほんのわずかな運をつかみ取れるかどうかだ。逃げるな。怖くても、手を伸ばせ。おまえは まだまだ ひよっこだが、明日は必ず来る」

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「こいつらは、まだ なにも完璧には こなせていない。だがな、できるようになろうと頑張ってる。客はそれを一緒になって応援する。そうしたくて、金を払うんだ」

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「わたし、少しはスターになれたのかな」
「そんなものには ならんでいい。おまえは明日を待ってるぐらいが ちょうどいい。ファンが会いたいのは、自分たちと変わらない、等身大のおまえだ。女優でも、スターでもない。おまえは・・・アイドールになれ。ファン 一人ひとりにとっての恋人、みたいなもんだ」

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「バカですよね。ファンにとって わたしは、生きるための力なんかじゃなかった。（戦争で）死にに行くための支えだった。ニコニコ笑って、『頑張って下さい』って・・・みんなが笑って死ねるよう、背中を押してた」

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「おまえが慰問に行こうと行くまいと、歌おうと歌うまいと、戦争は起きたし、多くの兵隊たちが命を落とした。だから、もう自分を責めるな。いまのオレたちに できるのは、客が少しでも笑って前を向いてくれるように、この劇場を開け続けることくらいだ。それが、オレたちの戦争だ」

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「これ（大量のファンレター）が おまえの やってきたことだ。なにひとつ恥じることなんかない。みんな、明日待子あしたまつこと一緒に生きてる――。笑って死ねる なんてやつが いるわけないだろう。こんな世の中だからこそ、娯楽が、ムーランが、アイドールの笑顔が、必要なんだよ」

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NHK／2022年8月11日放送
【脚本】八津弘幸